まず大前提として、現代では食品からのシュウ酸摂取量制限だけでは尿路結石の予防に資すると考えられていない。食品中の可溶性シュウ酸の量は尿中のシュウ酸の量に対する寄与が25%~半分未満とされ、ただシュウ酸の摂取量を控えようとするだけではなく、医師の指導に従って水分やカルシウム等を摂取することが望ましいとされている。
とはいえ、シュウ酸の摂取量も大事なファクターだと信じられており、健康のためにほうれん草は生では食べずに茹でこぼそうといった話はよく語られる。そしてそういったシュウ酸摂取量抑制の話題のなかに、キャベツもほうれん草よりは少なくともシュウ酸が結構含まれているので生で大量に食べないようにしようというものがある。
特定の医院を非難したいわけではないので具体的なリンクの列挙は避けスクリーンショットを載せるに留めるが、まあこういう美容が押しだされている医院の宣伝によくある。食品中のシュウ酸が尿のシュウ酸に大きく寄与しており、生キャベツは結構シュウ酸が含まれているという主張だ。

現代のキャベツのシュウ酸含有量
まともな医者が診断のよりどころにする専門医によるガイドライン、尿路結石症診療ガイドライン第3版( 尿路結石症診療ガイドライン 第3版 - Mindsガイドラインライブラリ ) 附表に様々な食品のシュウ酸含有量が記載されている。生キャベツは測定方法の異なる複数の論文をひいて可溶性シュウ酸が多いもので31mg/100g、総シュウ酸で0~125mg/100gという内容になっている。一方生ほうれん草は少ない測定でも可溶性シュウ酸349mg/100g、多いものでは946mg/100gとなっており、特にほうれん草では茹でる事でシュウ酸の量を大きく減らせる事を示すように茹でほうれん草と比較した種々の論文をひいている。雑にくくって生キャベツは生ほうれん草の1/10のシュウ酸含有量、嘘医院サイトの1/10のシュウ酸含有量だ。
誤解の原因その1 古い情報
実はヤブ医者の記述も昔は信じられていた。尿路結石症診療ガイドライン第2版pp.98-99に野菜とお茶のシュウ酸量の表が示されている。先のヤブ美容医院の内容と同じ内容で、キャベツ・ブロッコリー・カリフラワー・レタスをいっしょくたに扱う雑な表だ。 つまりヤブ医者は単に現代の医学に詳しくない、大昔の大学あたりで聞きかじった知識からブログを書いて宣伝に利用しているだけなのである。昔は信じられていたのだから情報の更新が遅いだけで仕方ないのだ。
……であればよかったのだが、これも実はおかしい。
誤解の原因その2 尿路結石症診療ガイドライン第2版が間違っている
さて、その古い雑な表の情報源はどこか。一応は医者のまともなガイドラインなので根拠とする文献も脚注で示されている。それが "Haytowitz DB, Matthews RH. Composition of Foods:Vegetables and Vegetable Products. In:Agriculture handbook. No. 8—11. Edited by Nutrition Monitoring Division, Human Nutrition Information Service, USDA, Washington DC, pp 502, 1984." だ。該当のp11のシュウ酸(Oxalic Acid)含有量のページ https://hdl.handle.net/2027/umn.31951002926106c?urlappend=%3Bseq=19%3Bownerid=21566572-18 を見るとキャベツ(Cabbage)は .10g/100g。そう、どう読みかえても100mg/100gなのだ。300mgではない。雑な表で挙げられていたキャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、レタスはそれぞれ .10g、 .19g、.15g、.33g。ちなみにほうれん草(Spinach)は.97g/100g。どうがんばって読んでもキャベツのシュウ酸含有量は尿路結石症診療ガイドラインの雑な表として読めない。
つまり尿路結石症診療ガイドライン第2版を校閲する人は誰も真面目に参考文献を読んでおらずそれっぽくシュウ酸の量も書いてある野菜の成分表を載せただけで、適当な記述でキャベツのシュウ酸含有量を3倍にし、間違った情報を権威ある文章に載せていたわけだ。
結論
二重の馬鹿医者のせいで悪名が広がってしまったキャベツ。気にせずたくさん生でも食べよう。美味いから。